羈旅的日剰備忘録

或る種の逃避記録

死語の世界

舊暦正月十五夜

 

 

 

 

EXPO70こと大阪万博の公式ガイドブックが発掘されましたので、少しだけ復讐しておきませう。
太陽の塔は偉大な博覧会遺産として残され、内部空間も修復が進んでゐるやうですが、当時小学生だった我輩は展示物の余りの異様さと亜空間に迷ひ込んだやうな酩酊感覚から脳内臨界状態となり、全ての造形がしっかりとトラウマ領域に刻み込まれて仕舞ったやうです。(ちなみにその他のトラウマは「怪奇大作戦」と「ウルトラQ」(とりわけケムール人)およびフェリーニ作品で構成されてゐる可能性が高いやうです。)
さて、展示館としてあらためて驚くのが「中華民國」(中華人民共和国との国交回復は2年後の1972年)「香港」「アフガニスタン」「ビルマ」「アブダビ」「象牙海岸」などですが、国内展示館として「モルモン・パビリオン」や「キリスト教館」などの存在に驚きます。「虹の塔」「東芝IHI」「フジパン・ロボット館」などは懐かしい限りであります。
あれから早くも半世紀近く経つことに、今夜はしみじみと驚くことにします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時折小雪舞ふ寒空の彼方の望月を観ぜよ。
 
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バックパッカー」てう言葉が死語になりつつある。今や死語の部類なんだらう。
旅先(主に海外)で見かける若者の大半は、バックパック(背嚢)ではなく、ゴロゴロガラガラとスーツケースを引き摺って歩く者ばかり。
自分の妙な信念として、自分に必要な荷物さえ背負えなくなったらその時点で本当の「旅」は終はりで、だらしなく荷物を引き摺って歩くくらいなら「旅」に行かない方がマシだてうものがある。荷物の重さは自分の罪の重さそのものであり、執着や欲望がそのまま重力に換算されたものであるのだと思ふ。だからといふわけではないが、一昨年のパリも去年の香港も、相も変はらずいい年したおっさんがバックパックで出かけたのである。単なるノスタルジアでもなく、生き方(ライフスタイル)の問題なのだ。ほら、かの権現様も遺訓で「人の一生は重荷を負ふて遠き道を行くがごとし。」と言ふておられるではないか。「重荷を引き摺って」ではないのだ。
自分は80年代後半、27歳で国外脱出に成功し3年以上を主に欧州や亜細亜各地で過ごしたが(「昭和」に出国し帰国したら「平成」になってゐた)、その頃は行く先々で様々なタイプの日本人と出会ふことができた。その多様さは動物園並みで、超人・偉人の類から廃人レベルのヒトまで、「旅人」という大きなくくりの下に、情報交換から哲学まで、あらゆることを話し合ったものだ。残念ながらこのやうな状況を、日本での平凡な日常で再現することは不可能であり、この一点だけをとっても、「旅」に身を投じる価値は十分有るのだ。ちなみに自分の場合、ここで繋がっているヒトの約半数が旅先で出会った人たちだ。
ほとんどの情報は実体験では無くネットから拾ってくる、コピペが日常茶飯事の現代。海外旅行にも行かない。いや、行かないワケではないが、数日間の海外旅行に巨大なスーツケースに日本での日常を必要以上に詰め込んで、それをゴロゴロガラガラと引き摺って、お膳立てされた範疇+ガイドブックに掲載されたところだけを回っておしまい。それでは余りにもったいない。
もちろん今も昔も海外には危険なところは無限に存在し、安全安心な日本に比べて海外での生死の振れ幅は想像を越えるものがある。でもそれは宿命と対峙を余儀なくされた結果であり、その人の運命の領域なのだから享受すべきことと思ふ。
C’est la vie と言ってしまへばそれでおしまひなのだが、一度きりの人生をどのように楽しみ、どのように過ごすかてう根源的な問ひに対し、「旅」は明確かつ無慈悲に輪郭線を与えてくれる。普段は秘められてゐるであらう野性の感覚や言語能力、コミュニケーション(中国語では「講通」と言ふ)能力や直感の数々、そして半ば強制的ではあるが、能動的な自分を発現させてくれるであらう。かのギョェテ、いや、ゲーテ卿も曰く、「若き日に旅をせずば、老ひての日になにを語る」とぞ。
と、ここまで書いておきながら、かういふ問題は時代潮流によるものなのだらうから、今や中年をも脱しつつある自分が書けば、単に年寄りの戯れ言と一笑に付されてお仕舞ひであることも承知してゐる。だから若者に無理矢理「旅せよ!」とは言はない。ただ、「もったいないな」と思ふだけにしておくことにする。
野口氏も百戦錬磨なだけに、概ね同じ意見なのだらうね。
 

【野口健の直球&曲球】どこへいったのか、若者の冒険心 守りに入ってどうするの? (1/2ページ) - 産経ニュース

 
守りに入ってどうするの? - NAKAMOTO PERSONAL
 
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【おまけ】

現代人の狂氣を感じる警告看板。恐ろしい(~_~;)